2013/6/11

為替手数料ゼロ?!常識をくつがえした海外送金サービス「TransferWise」

尼口友厚(カート株式会社 CEO)

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海外に住む家族に仕送りを送金するとき、銀行の手数料が高いことに不満を持っている人は多いだろう。

2011年に設立された「TransferWise」は、そんな手数料の悩みに注目して、ユーザーの海外送金の手数料負担を大幅に引き下げた金融サービスを提供する海外送金サービスだ。

創業1年目の総取引額は1600万米ドル(約16億円)。創業者が元スカイプ社(現マイクロソフト社のスカイプ部門)の創業メンバーであったことから、「海外送金版スカイプ」と呼ばれ、既存の金融機関の事業モデルを変える新興勢力の一つとして注目されている。

元スカイプ社員のひらめき

TransferWiseを立ち上げたのは、エストニア出身のTaavet Hinrikus(以下、ヒンリンカス)氏。創業のきっかけは、彼がスカイプ社に勤務していたときにさかのぼる。

当時彼は、転勤先の英国から本国エストニアにいる家族へ仕送りをしていたが、毎回送金額の5%の手数料を支払わなければならなかった。銀行が内訳の詳細を開示しないため、一般ユーザーには非常に分かりにくい料金設定であることも不満だった。

そんな送金手数料の不満について、後に共同創業者となる友人Kristo Käärmann(以下、カーマン)氏に話したところ、彼も同じような境遇にあることが分かった。

ヒンリンカス氏(上図右下の人間マーク)は、ユーロで給与所得を得ていたが、ポンドで家賃の振り込みをする必要があった。反対に、カーマン氏(同左上の人間マーク)はポンドで給与所得を得ていたが、ユーロで住宅ローンを振り込む必要があった。

この時ヒンリンカス氏は、自分たちのような境遇の2人がマッチングされると、次のことができると思いついた。

まずポンドをもっているカーマン氏がヒンリンカス氏の家賃をポンドで支払う。次に、ユーロをもっているヒンリンカス氏がユーロで家賃相当額をカーマン氏に支払う。このやり方なら、銀行を仲介することなく海外送金できる。

マッチングのシステムはスカイプのアルゴリズムを応用した。また、インターバンク・レート(銀行間で取引される為替レート)を使えば、銀行で外貨を交換するときに生じる為替手数料も発生せず、安い手数料での送金も可能だ。

こう考えたヒンリンカス氏はスカイプ社を退職し、「TransferWise」を設立したのである。

為替手数料ゼロの海外送金!?

TransferWiseはどのように利用するのだろうか。ユーロ圏で働く父親が、米国にいる家族に仕送り(ユーロを米ドルに両替して送金)するという設定で、海外送金のシミュレーションをしてみよう。ユーザーは、マッチングを意識することなく利用することができる。

まず、トップ画面で送金金額と通貨単位、受取の通貨単位を入力する。送金や受取で選択可能な通貨は、米ドルや英ポンド、スイス・フランなどだ。それらの情報を入力すると受取金額が表示される。同時に、銀行で海外送金したときと比べて、どの程度手数料が安いかを知ることもできる。

たとえば、送金額を1000ユーロ、受取通貨を米ドルと選択したところ、受取金額は1281ドルで銀行を利用したときと比べて51ドル安いという計算結果が表示された。同サイトが銀行より51ドルお得なのは、インターバンク・レートを適用するため、銀行で外貨を交換するときに生じる為替手数料の負担がないからだ。

銀行とのもう1つの大きな違いは、TransferWiseでは手数料の内訳を明示していることだ。

海外に送金する額が300ユーロまでのときには1ユーロの手数料、それより金額が大きくなったときは、送金金額の0.5%の手数料が請求される。

利用時には、海外送金にかかった手数料(今回は4.98ユーロ)や、インターバンク・レートでの為替レート(ユーロ・米ドル1.288。2013年5月16日時点)も表示される。料金明細がハッキリ分かることも、顧客満足度の高さにつながっている。ロイターで確認したところ、同日のユーロ・米ドルでのインターバンク・レートは1.288と、同サイトと同じ為替レートだった。

送金の手数料やサービス内容に同意したら、ユーザーは個人情報を入力し、ユーザーの銀行口座からTransferWiseの口座に現金を移動させる。その後、同サイトがマッチング(今回の場合は、米ドルをユーロ圏に送金したいユーザーを探す)を自動的に行ってくれる。営業日1-3日を挟んで、海外送金サービスが完了する。

普段の小さな不満を解決する

TransferWiseは、創業者自身の体験から、海外送金の手数料の問題点に注目して「ユーザーの手数料負担を軽減する」ビジネスモデルを構築することができた。解決する不満は小さくても、同様の不満を持っている人が多ければ、そのビジネスモデルは驚くべき破壊力を持つことすらある。

現に、TransferWiseは英ファイナンシャル・タイムズ紙の記事でこのように評されている。

「TransferWiseは既存の金融機関の事業モデルを変える新興勢力であり、これらの新しいインターネット金融サービスサイトにより、既存の金融セクターのシステムは崩壊に向かうのではないか。」

TransferWiseに限らず、ヒットするサービスの多くは「みんなの普段の小さな不満」を解決するものだ。

あなたにも、毎日ちょっとした不満があるはずだ。それを少しだけ頭のなかの議題として取り上げる。こんな小さな習慣が、素晴らしいサービスを生み出すきっかけになることは、多くのスタートアップ企業が証明していることだ。

僕も、今日の小さな不満を思い浮かべてみた。

  • 電器店に電気シェーバーの洗浄液を買いに行ったら売っていなかったこと。
  • ダイエット中なのに、いただきもののクッキーが美味しすぎて全て食べてしまったこと。
  • 仕事が溜まっているのに、こういう時に限って猛烈に眠いこと。

…。

眠いからか、ちょっと今日は面白いビジネスが思い浮かばなかったが…(笑)、頭の片隅にこういったことを意識するようにしていれば、アイディアというのは意外と思い浮かぶものだ。

僕はインターネット業界に身をおいていることもあり、どうしてもインターネットを使ったサービスを考えるクセがある。だが、何も、インターネットだけに範囲を狭める必要もない。あなたが専門としている分野においても、この思考法はイノベーションを起こすきっかけになるはずだ。

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