2014/5/14

資金ゼロでTシャツ販売ができるECサイト「Teespring」

尼口友厚(カート株式会社 CEO)

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マイケル・ジャクソンが急逝した後、追悼のTシャツを販売する露天商がマイケルゆかりの地の周辺に何軒も出現したと報じられたように、Tシャツはイベントや事件などがあると、便乗商法で使われることの多いアイテムだ。

しかし便乗商法にもリスクがある。普段からTシャツを売る商売をしていなければ、その話題が旬のうちに、消費者の心をとらえるデザインを考えて出荷するのはそれほど簡単ではない。元手もかかる。大量に売れ残れば、儲かるどころか、損をしてしまう。

2012年4月に正式にロンチした「Teespring」は、創設者たちが大学時代、ある出来事に便乗してTシャツを作って売ろうとしたところ、予想していたより面倒が多いことを発見したことから誕生した。同サイトでは、誰でもTシャツやタンクトップなどのアパレルにプリントするイラストやメッセージをデザインして、不特定多数の人から注文を受け、販売することができる。

注文者の口座から予約金が引き落とされて、実際にそのデザインで生産されるのは、事前に設定した枚数の予約が集まった場合だけに限られる。つまり、同サイトはアパレル専用のクラウドファンディングのプラットフォームになっている。そのため「Tシャツ版Kickstarter」というニックネームが付いている。

しかしTeespringが画期的なのは、このサイトを利用してアパレルを販売しようとするユーザーには、資金も、材料の調達から発送までの手間も要らないことにある。また、デザインの心得がなくても、用意されているテンプレートや文字だけを使って、自分のデザインを作ることや、同サイトのスタッフにデザインを手伝ってもらうこともできる。

こうした敷居の低さから、個人のほか、PTAや各種のNPO組織などからもチャリティやイベントの資金集めの目的で活用されている。

2013年にはスタートアップの養成機関であるYコンビネーターに参加し、その参加期間中に月間売上75万ドル(約7500万円)を達成。今年1月には、投資家から2000万ドル(約20億円)の投資も確保している。

Teespringの利用方法

まず、同サイトを利用して、アパレルのデザインを作成し、販売キャンペーンを立ち上げるまでの手順を見てみよう。

ステップ1 アパレルのデザインを作成する

作成のページに進むと、次の画面が表示される。

アパレルには、次の7種類が用意されている。右の価格は50枚作成した場合の1枚当たりの原価である。この原価には、Teespringが取る利益分も含まれている。

  • 半袖:5.75~8.17ドル(約580~820円)
  • 長袖:7.50/8.00ドル(約750/800円)
  • タンクトップ:6.73ドル(約675円)
  • フード付きジャンバー:18.39ドル(約1840円)
  • Vネック:9.15ドル(約915円)
  • 迷彩柄:16.50ドル(約1650円)
  • 女性用:7.50ドル(約750円)
  • アスレチックウェア:7.75ドル(約775ドル)

製品はAmerican Apparel、Hanes、Canvas、Next Level、Spectraなどのブランド製である。半袖と長袖の場合は、どのブランドを選ぶかによって原価が多少変わる。

選択肢の中からどれかを選び、そのアパレルにプリントするデザインや文字を追加する。

自分のデザイン(10色以下)をアップロードすることも、サイトに用意されているライブラリからデザインを選ぶこともできる。

下の例では、Gildanというブランドのアスレチックウェアに、用意されていたイラストの1つを選んで合わせてみた。イラストと文字の位置や大きさと色、アパレル自体の色をカスタマイズすることができる。また、同じデザインで2種類以上のパターンを用意することも可能だ。

ステップ2 目標を設定する

「販売目標枚数」と「販売価格」を設定する。たとえば、もし僕が上のアスレチックウェアの販売目標枚数を30枚、販売価格を1枚19ドルに設定して、宣伝キャンペーンを立ち上げた場合、キャンペーンの期限内に30枚の注文が入れば、僕の儲けは1枚当たり9.33ドル(約930円)なので、利益は合計およそ279ドル(約2万8000円)になる。

ステップ3 説明を加える

デザインしたアパレルを売り出すためのキャンペーンに名前をつけ、目的や意図を説明し、買い手を誘導するキャンペーンページのurlを指定する。

さらに、キャンペーンの期間を3~21日の間で設定する。目標枚数に到達しても、キャンペーン期間が終了してからでないと、プリントは開始されないので、何かのイベントに間に合わせたい場合は、プリントと発送にかかる時間の余裕を見て、そのイベントの14日以上前にキャンペーンが終わるように設定しておく。

すべての設定が終わったら、キャンペーンを立ち上げる。

たとえば、現在(2014年5月10日)、「teespring.com/jahova」というurlでは、「jahova’s witniss」という、「エホバの証人(Jehovah’s Witnesses)と紛らわしい名前のゲームを制作しているクリエイターが次のTシャツのキャンペーンを行っている。期間を1週間残して、売上目標100枚に対し、すでに1202枚の予約が入っている。

キャンペーンの終了期限が来ると、TeespringがこのデザインでTシャツをプリントし、予約した顧客に発送する。その際、顧客には商品の価格以外に、送料の負担がかかる。

ソーシャルメディアを通じた宣伝

キャンペーンを立ち上げたユーザーはソーシャルメディアなどを通じて、自分がデザインした商品を宣伝することが普通だ。

上のアイスクリーム柄のアパレルのキャンペーンを立ち上げたグループは、売上を伸ばすために、facebookやtwitterのほか、YouTubeでも宣伝を展開している。

Teespringでもfacebookに広告を打っている。

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また、Teespringのfacebookでも、キャンペーンを紹介している。そこからリンクをクリックして、キャンペーンのページに行き、注文することもできる。

行きつけだった安酒場の閉店がビジネスのきっかけに

ロードアイランド州にあるブラウン大学の学生だったEvan Stites-Clayton(上写真左)氏とWalker Williams(上写真中央、以下ウィリアムズ)氏は、2010年、学生たちがアルバイトを効率的に検索できるようにした「Jobzle」というサイトを立ち上げ、将来有望なスタートアップとしてマスコミにも紹介された。

ところがこのサイトを収益化しようとした段階でつまづいてしまう。無料ならば便利だと利用していた企業や学生も、有料会員になってまで利用しようというほど、ありがたいサイトだとは評価していなかったのだ。

2人が落胆しながらも、Jobzleを収益化する方法を探してまだ格闘を続けていた翌年1月のある日、ブラウン大学のキャンパスは近所の安酒場が未成年に飲酒をさせた罪で閉鎖になったという話題で持ち切りとなる。その酒場は同大学に在籍した経験のある者ならば、誰でも訪れたことがあるというほど伝統的に人気のある店だった。facebookもtwitterも、閉鎖を嘆く投稿であふれた。

2人はこのバズに乗らない手はないと考える。

「Jobzleがなかなか収益化できずに疲れていたので、すぐに結果が出て、てっとり早く稼ぎにつながることを試したかったんだ」(ウィリアムズ氏)

酒場の閉鎖解除を訴えるメッセージをつけたTシャツをデザインして、すぐに売り出せば、その酒場の常連だった学生たちが買うに違いないと、2人はオリジナルTシャツの作成を請け負っている店に連絡を取る。

しかしここで2人はデザインだけでなく、サイズと枚数も指定する必要があることと前金を支払わなければならないことに気づく。彼らが予定していた200枚を発注するには、1000ドル(約10万円)以上の資金が必要になるが、金欠の彼らにその余裕はなかったし、どのサイズを何枚用意したらよいのかも分からなかった。

また、注文後、完成までに2週間かかると言う。2週間後では、バズは終息しているだろう。発売するならこのタイミングを逃してはならない。

そこで彼らはプログラミングに約5時間をかけてウェブサイトを作り、「200枚分の注文が入ったら、店に発注する。注文が200件に到達しなければ、この企画はお流れになる」という説明をつけて、注文を取り始めた。サイズは注文者がそれぞれ指定するようにした。

この企画はあっという間に学生たちの間に広まり、最終的に約400枚の注文が入る。2人の利益は約2000ドル(約20万円)になった。

これだけでも短期間の小遣い稼ぎとしては大成功だったのだが、その後、彼らのもとには個人の他、クラブやコミュニティの運営者から次々とメールが届く。

最初はなぜメールが届くのか怪訝だった2人だが、どのメールも彼らに自分たちの企画のために同様のプラットフォームを作ってもらえないかという問合せだということがわかり、鉱脈を探り当てたことに気づく。それからはJobzleの収益化ではなく、Teespringの立ち上げに本腰を入れるように方向を転換した。

集客力を爆発的に増加させたあるキャンペーン

ロンチ後の最初の半年間、Teespringは大学のサークルや付近のNPO機関などを中心に利用されていたが、世間一般にはあまり存在を知られておらず、利益もそれほど上がっていなかった。

ところがあるニュージーランドの男性のおかげで集客力が爆発的に増加する。その男性はfacebookで、英BBCのテレビ番組『Sharlock(シャーロック)』のファンページを作って運営し、当時で約30万人(現在約35万人)ものファンを獲得していた。

このコミュニティページから金銭的な利益を上げたいと思っていた彼は、Teespringのことを知り、次のデザインで最初のキャンペーンを立ち上げる。

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このデザインはあまり評判にならず、男性が手にしたのは462.12ドル(約4万6000円)だった。しかしTeespringのキャンペーンには一切リスクがないため、彼は再び新しいデザインでキャンペーンに挑戦し、facebookで宣伝した。

このデザインはコミュニティのメンバーに好評を得た。キャンペーン終了後もメンバーから購入したいというリクエストが届いたため、彼はその後もTeespringに繰り返し登場し、このデザインでキャンペーンを行うようになる。

New York Timesの記事によれば、昨年5月までで、このシリーズの販売枚数は1800枚となり、男性は1万8000ドル(約180万円)を獲得し、Teespringにも8000ドル(約80万円)の利益をもたらした。

この男性がTeespringについて好意的に語ったこともあり、彼と同じように、メンバーの多いコミュニティを運営している人たちの間で、Teespringでキャンペーンを行うことが流行となった。

「便乗商法ユーザー」が成長の鍵。

インターネットを検索すると、Teespringを利用して、副収入の獲得に成功した人たちの手による「私はどうやってTeespringで○○ドルを稼いだか」といったタイトルのブログ記事がいくつも見つかる。驚くことには、「Teespringで儲ける方法」を有料で伝授するという便乗商法まで登場しているのだ。

「便乗商法」と言うと聞こえが悪いが、要は顧客が自発的にTeespringのプロモーションをしてくれているということだ。Teespring自身が必死で広告しなくても、周囲がどんどん話題にしてくれる。Tシャツも販売してくれて、販促までやってくれる「便乗商法ユーザー」はむしろ、同社にとって最も重要な存在とも言えるだろう。

Teespringはソーシャルメディア全盛の時代にとてもマッチしたビジネスモデルだ。

あなたのECサイトも「便乗商法ユーザー」を生み出せないだろうか? 考えてみると面白いだろう。

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