2015/1/21

ロボットの「手書き」サービスを提供する「Bond」

尼口友厚(カート株式会社 CEO)

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僕が子供の頃、友人への年賀状はすべて手書きで送っていた。当時はインターネットも携帯電話もなかったので、それが当たり前の話だった。何十枚という年賀状を送るのは子供にとっては大仕事で、書き終えるまでに何日も要したものだ。

いつからか年賀状は年賀メールに取って代わった。テンプレートの中から決まったデザインを選択し文字を入力すれば完了。何十人に送ったとしても数時間で終わった。

年賀状を送る習慣が再び目覚めたのは社会人になってからだ。ただし基本的にPCやプリンターで作成したものなので、作業もさほど時間のかかるものでもないし、完成度も段違いに高いのだが、やはりどこか味気ないと思うこともある。

今回ご紹介する「Bond」はそうした手間の削減もしつつ、より味わい深い手紙やメッセージを送ることのできるサービスだ。同サイトは依頼主に代わって、手書き風の文字をロボットが手紙に直接入力し、サイトのスタッフが手紙として届けてくれるというサービスを行っている。

同じようなサービスとして以前ブログでも紹介した「HandieMail」があるが、こちらはあくまで人が代筆するのに対し、Bondはロボットが手書き(?!)するのが特徴だ。手書きを行うのが人からロボットに変わることでどのような変化が見られるのだろうか? 以下で詳しく見てみよう。

字が下手で手紙を書くのは苦手だが、人からの手紙は残していた

Bondの創業者はインド出身のSonny Caberwal(以下、ケイバ―ウォール)氏。デューク大学でビジネスと国際学を、ジョージタウン大学ロースクールでは法律を勉強し、2004年からChadbourne & Parkeにて弁護士を務めていた人物だ。

ケイバーウォール氏は弁護士だけでなく、さまざまな仕事に積極的に挑戦した。2005年には紅茶を販売するECサイト「Tavalon」の共同経営者となり、その後もファッションサイトの「Exclusively.In」や「Sher Singh 」を立ち上げた。なお後者の2つは2012年に「Myntra.com」に買収されている。

さらにブランド・ケネス・コールの生誕25周年を記念して行われた広告キャンペーンではモデルを務め、パーカッショニストとして人気バンド「Thievery Corporation」と競演を果たしたこともある。

そんな濃い経歴を持つケイバーウォール氏が次に考えついたのが、PCやスマートフォンからの簡単な操作で贈り物や手書きのメッセージを送ることができるサービスだったという。

実は同氏は字が下手で、そのこともあってか手書きの手紙を作成するのに充分な文房具を揃えていなかった。その一方で自身は、他の人から贈られた手書きの手紙を大事に保管している。そこから手書きの手紙が他者に与える影響と、作成する手間のギャップを感じ取ったケイバーウォール氏は、人をまねてペンを動かすロボットを使って、手書き風の手紙を作成してはどうか、と思いついた。

2013年8月に「Bond」をロンチすると、キュレーションしたギフトをラッピングし、手書きの手紙とともにデリバリーしてくれるサービスを開始。利用者ができるだけ手間をかけずにギフトを贈れるようにするため、送り先の住所が分からなくても、スタッフがメールや電話で連絡を取り、住所を確認してくれるシステムも採った。

しかし、「手書きのメッセージを添えて贈り物をおくる」というサービスは、あまり顧客から支持されなかった。顧客たちは手書き風の手紙を贈るサービスのみを行って欲しいという要望をサイトに寄せるようになり、自分たちに求められているものが何かを知ったケイバーウォール氏は、サイトのしくみを変更するのに10ヶ月を費やしたという。

そして2014年11月よりサービスをリニューアルすると、「ロボットによる手書き風の手紙作成」に特化したサービスを新たにはじめることになったのである。

自分の好きなフォントを作成することも可能

Bondでは、PCからメールを打つような感覚で、サイトにテキストや相手の氏名や住所を打ち込んで手紙を送ることができる。なお以前はiOS向けのアプリもあったが、リニューアルしてからはPC向けにのみ、サービスを行うようになったようだ。

手紙の作成にかかる利用料は1通あたり2.99ドル(約350円)。利用できるフォントは数種類用意されており、スタッフが作成したものの他、発明家ニコラ・テスラの筆跡を使用したものを選択することもできる。なお文字サイズは3段階に調節可能だ。

手紙作成は、「QUICKSTART NOTECARDS」「CUSTOMIZABLE NOTECARDS」「CORPORATE NOTECARDS」の3種類のやりかたで行うことができる。

「QUICKSTART NOTECARDS」はできるだけ利用者が手間をかけずに作成できるプランだ。あらかじめ「It’s Been Too Long」や「From Me To You」の一文が用意されているものや、簡単な挿絵の入ったものなど7種類のテンプレートからカードを選択し、あとはメッセージや送付先の住所を入力すればよい。

「CUSTOMIZABLE NOTECARDS」もさほど手間がかかるものではないが、こちらはよりデザインの種類が豊富で、メッセージ以外にタイトルの文章も入力できるのが特徴だ。また「CORPORATE NOTECARDS」は自分の手持ちのロゴや画像ファイルを挿入することができる。企業やブランドが顧客にメッセージを送るときには重宝する機能だろう。

メッセージの手紙への入力は万年筆とインクをその手に持ったロボットが担当する。このロボットは「手書き」の味わいを出すため、細かく筆圧を調整されているそうだ。

Bondのサービスは個人も利用できるが、主な利用層はやはり大量の手紙をやりとりする可能性の高いプロや企業だろう。顧客や取引先などに向けてフォローアップの手紙を送りたいと考えるプロは多いが、手紙を手書きする手間はかかってしまう。その点同サイトはロボットが「手書き風の手紙」を作成してくれるので、百万もの大量の仕事にも難なく対応できるのが利点だ。

同社は2014年には大手ビール会社のハイネケンとタッグを組み、ビールの購入者に向けた「Spark Your Holidays」というキャンペーンも行っている。

これは4000文字以内のメッセージと送付先の住所、名前を入力すると、ロボットがメッセージを手書きしてクリスマスカードを贈ってくれるというものだった。敢えて「ロボットの手書き」というテクノロジーを前面に出すことで企業ブランドをアピールするのに成功した例といえるだろう。

ロボットが代筆する価値はどこか?

Bondの概要はこんなところだが、ロボット代筆業「ならでは」の一番面白いところは、自分の筆跡を使ってフォントを作成し、そのフォントで代筆できるというオプション機能だ。

このオプションは、自分の書いた筆跡をスキャンして、オンラインで専用フォームから送信するだけで利用できる。料金は199ドル(約2万3000円)。より完成度を高めたい場合は、専門家と相談しながら自分だけのフォントを作成する499ドル(約5万9000円)コースも用意されている。

これは自分の文字に自信のある人が大量に手紙を書きたいときに非常に重宝するのではないだろうか。人ではなく、ロボットが代筆する大きな価値がここにあると感じた。

もっとも、ケイバーウォール氏もこのサービスは「自分が書いたように見せかける」ためではなく、利用者のデザインの選択肢を広げるサービスとして使って欲しいと考えているようだ。

「僕たちは、誰かが『自分で手紙を書いた』と見せかけるためにサービスを行っているんじゃないんだ。人々が自分の望むやり方で、思い思いの表現ができるツールを提供したい、と思っているんだよ」

ケイバーウォール氏(Bond 創業者)

いずれにしても、「代筆業」のように人の手が欠かせなかったビジネスがロボットの手に変わることで、新たな価値が生まれたことには変わりない。

これまでロボットの役割と言えば、正確性を向上させたり、コストを下げるといったものがほとんどだったように思うが、付加価値をも作らせることができるということが分かる面白い事例ではないだろうか。

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