2015/3/25

6万円で制作され、2000万回再生され、1億2000万円を売り上げたYouTube動画

尼口友厚(カート株式会社 CEO)

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すっかりお馴染みのYouTubeだが、最近はこれを活用したマーケティングも浸透してきているように思う。興味深いのは、TVCMと違い中小企業の活用事例が多く、むしろ大手よりも成功している場合が多々あることだ。

今日はこういった成功事例の1つをご紹介したい。舌ブラシ「Orabrush」のプロモーション動画はこれまでに合計4400万回以上視聴されている。中でもOrabrushが創業当初にYouTubeに投稿し爆発的に視聴者を獲得した「How to tell when you breath stinks」は2000万回以上の視聴数を誇っている。

Orabrushは米国オタワにおいて2010年に設立され、これまでに総額350万ドル(約4億円)の投資を受けた。YouTubeを使ったマーケティングを強みにした口コミを意図的に拡めるマーケティング手法であるバイラルマーケティングで低コストで多くの顧客を獲得することに成功した企業として注目を浴びている。

口臭について苦情を受けたのが起業のきっかけ

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創業者で医師のRobert Wagstaff氏(以下、ワグスタフ)氏は1964年にワシントン州立大学で栄養化学を専攻したのちに栄養士として食品会社で働いたり、栄養アドバイザー・自営業者として会社経営を行ったこともある人物だ。また1998年から2001年の間にはフィリピンの教会において牧師も務めている。

ワグスタフ氏が商品開発のきっかけを得たのは、この牧師時代のこと。牧師として人前で話していたある時、ワグスタフ氏の口臭が気になるという苦情をもらうことがあった。このことに大きなショックを受け、なんとかしなければと思った同氏は、自身の栄養化学分野での知見を活かして口臭をとるための方法を検討。その上で、「舌ブラシ」こそが有効であると結論付けた。

口臭のほとんどは舌から来るため、舌のバクテリアを取り除くことのできる舌ブラシは口臭予防に大きく役立つ。ところが当時は舌ブラシがあまり出回っていない上に、口臭の原因となるバクテリアを除去できる舌ブラシはなかったため、口臭をしっかり予防できる舌ブラシを発明することを決意したのだった。

ところが、2000年代初頭に自作の舌ブラシを完成させ、いざ販売というときになって、ワグスタフ氏は大きな問題に直面した。舌ブラシが驚くほど売れなかったのだ。

店頭で取り扱ってもらおうとWalmartなどのスーパーに販売許可を求めたものの門前払いを受け、販売許可が出たスーパーでも購買者から注目を浴びることはなかった。それではTVコマーシャルにて宣伝・販売してみてはどうかと4万ドルもの予算を投じたが、こちらも100個ほどしか注文は入らなかった。

数年間にわたって販売に苦戦したワグスタフ氏は2009年、地元のブリガムヤング大学のマーケティングクラスにおいて生徒に舌ブラシを研究対象としてもらい、参考意見を求めることにした。しかしクラスの学生のほとんどは小売で買い物をする消費者の92%は舌ブラシを買うことはないだろうと、否定的な意見を持ったという。

その時ひとりだけ、別の意見を述べるものがいた。それが当時26歳のJeffrey Harmon氏(以下、ハーモン)氏だ。ハーモン氏はまず「92%は買わないとしても残りの8%はどのように反応するのだろうか」と考えた。全体の8%といってもその数は数百万人にものぼる。その人たちが購入する可能性があるだけで十分なマーケット規模があると思ったのだ。

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そして挙手して「小売りなどの従来の販売チャネルよりも、オンラインでの販売の方が消費者から受けが良いかもしれない」という意見をワグスタフ氏に述べた。また授業が終了した後にはワグスタフ氏に近づいてこう伝えたという。

”僕は舌ブラシという商品に興味があるし、オンライン販売を手伝うこともできる”

こうした経緯でハーモン氏と出逢ったワグスタフ氏は、パートタイムでマーケティング担当者として彼を雇い、オンライン上でのマーケティングを任せることになったのである。

バイラルマーケティングのお手本

ハーモン氏はワグスタフ氏のパートタイム以外にも仕事を抱えていたため、他の仕事が終わった夜にOrabrushの舌ブラシをどのように販売していくのか、認知度を高めるのか考えていた。

まずはfacebookを活用したマーケティングを行うことに決め、YouTubeの動画をfacebookに投稿して拡散していくことを試した。

投稿する動画としては舌ブラシとの関連性も考えて、「息がにおうかどうかを確認する方法」という動画をYouTubeで見つけ出し、その動画の製作者に許可を取ったうえでその動画にOrabrushの宣伝を付け足した。

するとこれまでと比較して購入率が一気に3倍以上に上がった。そこで2009年9月には息がにおうかどうか確認する方法をテーマとし、動画中でのOrabrushの宣伝もしっかり加えた動画を自主製作した。そして動画をYouTubeに投稿したところ、動画が爆発的に視聴されることとなりECサイトへのアクセスも急増した。

現在この動画は2000万以上の視聴数を記録している。視聴数の急上昇と共に舌ブラシの販売数もうなぎ昇りに伸び、同サイトの売上は2009年の販売開始から1年で100万ドル(約1億2000万円)を達成するに至っている。ちなみに、このビデオの制作費は500ドル(約6万円)とのことだ

6万円で制作され、2000万回再生され、1億2000万円を売り上げた動画「How to tell when you breath stinks」はこちらだ。

キーワードで検索されない商品、人々に認知されない商品こそが動画宣伝で生きる

ハーモン氏の作成した動画は、いったい何故それだけの人気を得ることに成功したのだろうか。

Orabrushでバイラルマーケティングを成功させたハーモン氏は、動画が「Edutainment ad」であることを意識したという。Edutainmentは教育を意味する「Education」とエンターテインメントを意味する「Entertainment」を掛け合わせた造語だ。

同氏がはじめにつくった「How to tell when you breath stinks」の動画を見てみると、動画のストーリーは3つのパートで構成されていることが分かる。

まずは最初に、視聴者に口臭がしないと思っている人ほど口臭を持っている場合があることを伝える。口臭など他人事であると考えている視聴者に口臭は自分の問題であることを認識してもらう。

つづいて視聴者に口臭を自分の問題であることを認識させた後に、それではどのようにして口臭を確認するのかスプーンを使った簡単な口臭の有無の判断方法を紹介する。

そして最後に口臭予防に必要なのが歯ブラシでもなく、モンダミンでもなく、Orabrushの「舌ブラシ」であると発信。そして何故「舌ブラシ」が効果的なのかの説明として、舌のバクテリアを除去できる点を強調するのだ。実に面白く、分かりやすい構成となっている。

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それではただ「分かりやすさ」と「面白さ」を両立させたからこそこの動画が人気を得たのかというと、そういうわけではないようだ。YouTubeの元CEOのSalar Kamangar氏は、「舌ブラシ」という製品とそのメリットが世間で知られていなかったことこそが、動画で巨大な人気を得た理由である点と指摘している。

”視聴者が「購入したい」と思える動画コンテンツかどうかの見極めはシンプルです。それはそれが「キーワードを検索することによって買われている製品かどうか」ということ。検索でたどりつけない製品はただネットで販売してもなかなか売れません。しかしこれを動画で宣伝すると大きな力を発揮するのです”

 - Salar Kamangar

「検索ワード」と動画の関係性についてはハーモン氏も同じような言及をしている。口臭の90%は舌から来ているとする研究結果は広く認知されていないため、人々は「舌」とブラッシングの関係性も考えないし、GoogleやYahooの検索ワードに「舌ブラシ」が入ることも少ない。

「皆が知らない」「検索ワードにも入らない」ものは、他の製品と同じように店頭で販売してもその製品の効果は充分に理解されず、売上につなげることも難しい。ワグスタフ氏が売上に苦しんだのも、そうした事情によるものだった。

そこでハーモン氏はまず友人らに呼び掛けて動画制作のスタッフを集め、順を追って分かりやすく説明するとともに「口臭は舌から来る」ことにあると強調し、視覚的に順を追って新しい概念を提供してみせた。人々はそこで「舌ブラシ」の概念を学び、それが購買意欲につながったというわけだ。

人々に認知されていない商品だからこそ動画で生きる、これは販売を考えている製品が動画宣伝に向くかどうかを考える上での指針のひとつといえるだろう。

Orabrushにみる「動画コンテンツ制作時に心掛けたいこと」

もっとも、ハーモン氏らはただこうした法則に基づいて動画を作成したのではないという。ハーモン氏とともに動画作成に関わったAustin Craig氏は、このような証言をしている。

”僕たちのビデオ「コメディ的な要素を認められてバイラルしたけど、最初からうまくいったわけではないんだ。僕たちは内容をよりよくするため、直感に頼るのでなく、分析や細かな試行錯誤にかなり多くの時間と手間を掛けた。思うような結果を得るためにジョークやタグ、タイトルを何度も何度もテストしたんだ。”

”動画が成功した理由はなんといっても、ジェフェリーが懸命に働いたことに尽きるね。成功の本当の鍵は、物事が変化したときに、なぜそうなるのかを念入りに検証することにあるんだよ”

 - Austin Craig

ハーモン氏自身は、動画作成のアプローチに必要なこととして「思慮深さ」を挙げている。ただセンスや理論に頼るのみでなく、質の高い動画を作成するために徹底的な試行錯誤を繰り返したことが、このバイラル動画を産んだ。これは動画作成のみならず、いかに人々に受け入れられる製品を販売するのかにも通じることだろう。

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